Business Systems
Level 0:既存オンプレミスCRM
移行前
Architecture Journey「Business Systems」の出発点です。まだAWSは登場しません。ここでは、これから移行していく架空企業と、そのCRM・SFAが抱える課題を確認します。
今回の企業・業務状況
- 業種:法人向けサービス企業(中堅B2B)
- 社員数:300人
- CRM利用者:80人(営業・管理者)
- 顧客データ:約10万件
- 主な利用時間:平日8時〜20時
- 開発・運用担当:3〜5人
- 扱う情報:顧客、担当者、商談、営業履歴、添付資料
このCRM・SFAが担う役割
営業担当が商談履歴や顧客情報を記録し、管理者が案件の進捗を確認する、典型的な社内CRM・SFAです。
この後のLevel 1以降でも、扱う業務内容そのものは変わりません。変わるのは、これをどう安全に・止めずに・拡張しやすく動かすかというアーキテクチャ側です。
現在のアーキテクチャ
社内ネットワークに設置されたWebサーバーとデータベースサーバーで構成されており、添付資料(提案書・見積書など)は別のファイルサーバーに保存されています。
システム構成の詳細
大企業の情報システム部門が外部SIerに構築を委託した、典型的なオンプレミス3層構成です。
| 役割 | 台数・構成 | スペック | OS | ミドルウェア/DB | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| Webサーバー | 2台(負荷分散なし、片系は障害時の手動切替用) | 物理サーバー、4コア/メモリ16GB | Windows Server 2012 R2 | IIS 8.5、.NET Framework 4.5 | OSは既にメーカーサポート終了(EOS)済み |
| APサーバー | Webサーバーに同居 | - | - | 業務ロジックはASP.NETアプリケーションとして実装 | Web層とアプリ層が分離されていない |
| DBサーバー | 1台(単一構成、クラスタなし) | 物理サーバー、8コア/メモリ32GB、RAID5 | Windows Server 2012 R2 | SQL Server 2014 Standard Edition | ライセンスの都合でAlways On等の高可用機能は未使用 |
| ファイルサーバー | 1台 | NAS、RAID5、実容量2TB(残容量約20%) | - | SMB共有 | 提案書・見積書等の添付資料を保管 |
| バックアップ | テープ装置1台 | LTO6、週次フル+日次差分 | - | - | 過去1年間、リストア試験は未実施 |
運用体制の実態
- 保守は社内情報システム部門(3〜5人)と、構築を担当した外部SIerとの年間保守契約の組み合わせで成り立っている
- 検証環境が存在しないため、OS・ミドルウェアのパッチは四半期に一度、深夜メンテナンス枠で本番環境へ直接適用している
- 変更作業の記録は情報システム部門内の口頭確認・個人メモにとどまり、変更履歴を追跡する仕組みがない
- 監視は、Windowsサーバー標準のイベントログとリソースモニタを担当者が定期的に目視確認するのみで、自動アラートは存在しない
情報システム部門・現場からの要望
| 発信元 | 要望 |
|---|---|
| 経営層 | 障害による営業機会の損失を防ぎたい。IT投資を「守りの保守」から「攻めの投資」へ転換したい |
| 営業部門(現場) | 外出先や客先からリアルタイムに商談情報を確認・更新したい |
| 情報システム部門 | OSのサポート終了に伴うセキュリティリスクを解消したい。ハードウェア保守契約の更新コストを削減したい |
| 情報システム部門(運用担当の本音) | 属人化した運用から脱却し、変更履歴が残る仕組みにしたい。深夜メンテナンスの負担を減らしたい |
発生した課題
| 課題 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 老朽化 | Windows Server 2012 R2は既にEOS済みで、脆弱性が発見されてもベンダーからの修正パッチが提供されない。故障時の交換部品調達にも時間がかかる。 |
| 属人化 | バックアップ運用・変更作業が特定の担当者の記憶と個人メモに依存しており、変更履歴を追跡できない。 |
| 拡張困難 | 顧客データと添付ファイルが別サーバーに分散しており管理が煩雑。開発環境と本番環境が分離されておらず、変更のたびにリスクを伴う。 |
| 社外アクセス不可 | 社内ネットワークからしか利用できず、外出中の営業担当が使えない。 |
| 監視体制の不足 | 自動アラートの仕組みがなく、担当者の目視確認が遅れると障害の発見自体が遅れる。障害発生時の復旧にも時間がかかり、業務が長時間停止する。 |
| 検証環境の不在 | パッチ適用や変更を検証する環境がなく、本番環境へ直接適用せざるを得ない。結果として、パッチ適用自体を先送りする判断につながっている。 |
この構成の限界
社内ネットワーク前提の構成では、リモートワークや外出先からの利用に対応できません。単一のサーバー群・単一データセンターに依存しているため、障害・災害への耐性が低く、事業継続性の観点でもリスクを抱えています。加えて、OSがEOS済みであることは、機能面より先にセキュリティ面の限界として扱うべき問題です。検証環境がないままパッチ適用を続ける、あるいは先送りし続けるという運用のどちらも、リスクを増やす方向にしか働きません。
次のLevelで改善する点
まずはアプリケーションを大きく作り変えず、安全にAWSへ移行することを目指します。Level 1:AWSへの初期移行で、VPC・EC2・RDSを中心とした最小構成での移行を扱います。